夜レンタカーを借りて一路八ヶ岳へ。目的地は登山口の美濃戸だが、紅葉で有名な夜明けの白駒池へ立ち寄った。うっすらと霧が湖面を覆う中、朝日が差し込み色づく木々をより一層鮮やかに照らし出す。美濃戸の赤岳山荘でたまたま赤岳鉱泉のご主人と出会い、一般車は立ち入り禁止の区域の中まで車で乗せてもらう。おかげでその日のうちに赤岳へ登頂できた。
コース:白駒池~美濃戸~赤岳鉱泉~行者小屋~文三郎尾根~赤岳山頂~地蔵尾根~赤岳鉱泉(泊)~渋の湯(入浴)
夜10時、新宿で待ち合わせをしてレンタカーを借り、調布ICから中央道を下ります。
快調に飛ばし、1時に双葉SAに到着。ここで4時まで仮眠をすることにしました。思ったほど寒くなく、暖房をつけなくても大丈夫です。
4時、再び出発。
諏訪南ICから一般道に下り、友人お勧めの白駒の池に行ってみることにしました。
星空の下、真っ暗な八ヶ岳の高原をヘッドライトの明かりのみで走ります。
そんな中、ところどころで野球場のナイターのような照明が点いた一角があり、よくみると何人かの人が、野菜の収穫をしていました。まだ暗いこんな早朝からご苦労さまです。
くねくねとした山道にはいり、しばらくするとだんだんと明るくなってきました。空には薄く雲がかかっていますが、晴れそうな感じ。
6時、白駒の池に到着。
駐車場には、もうすでにちらほらと車が停まっていました。すぐ近くにある、白駒の池への登山道入り口から歩き始めます。
しばらく気持ちのいい朝の森の中を歩いていくと、ほどなく池に到着。
それはとても神秘的な光景でした。山の向こうから漏れた朝日に輝く雲と、赤や黄色に色づいた木々が、うすい朝もやが立ち上る鏡のような湖面に写っています。
その湖岸には、この美しい風景を写真におさめようとアマチュアカメラマンがずらり。
すでにいい場所は埋まっていましたが、私も負けずにその間からシャッターを切ります。
太陽が出てくると、紅葉した木々の色がさらに鮮やかになりました。
池の周りは遊歩道になっていて、一周40分くらいで回れるようになっているので写真を撮りながら行ってみました。
しばらく行くと山小屋があり、その前にある桟橋まで下りてみます。
さきほどたくさんのカメラマンがいた場所の向かい側になるのですが、ここからの風景も格別でした。
来てよかった~~!
連れてきてくれた友人に感謝です。
およそ1時間半ほど満喫し、白駒の池を後にしました。
バスで行くと美濃戸口のバス停までですが、今回はレンタカーなのでさらに奥まで車で行くことができます。
道が悪いので車高の低い車では底をこすってしまう可能性がありますが、今回はこのあとすぐに赤岳に登頂するつもりだったので、この距離分の時間を稼げるのは大きいです。
少し進むと対向車が来たので待避所に入り通り過ぎるのを待っていると、向こうの車から運転手が降り、私たちのほうへやってきました。
何かと思って窓を開けると、
そこ、ガクンとなるから気をつけて。
それから山登りで車停めるなら、手前の駐車場じゃなくてそのまた奥にある左側のがいいよ。
少しでも登っておくほうがラクでしょ。
とわざわざ教えてくれました。お礼を言って、そのおじさんの言った駐車場を見つけそこに停めました。そこは赤岳山荘の駐車場で、その先の美濃戸山荘を利用する人以外が停められる最終地点です。
駐車場は平日ということもあり空いていました。
料金を払いに行くと、ちょうど山荘のおかみさんが男性を話しているところでした。
おかみさんに声をかけて、2日間分の2000円を支払っていると、傍らの男性がこれからの予定を聞いてきました。
これから赤岳に登って、今日は行者に泊まる予定だと告げると、
じゃ、ちょうど帰るところだから途中までおれの車に乗っていきます?
とのこと。
なんとその男性は、赤岳鉱泉と行者小屋のご主人だったのです。ちょうど食料の買出しで下りてきていて、今からその食料を荷揚げするとのこと。
なんてラッキー♪
ご主人いわく、一時間は短縮できるとのことでありがたく乗せていただきました。
車は美濃戸山荘も通り抜けぐんぐん登っていきます。
その車中、ご主人から、
行者も良いけど、鉱泉の方がいいよ。
小屋も綺麗で広いし、お風呂もあるし、今晩の夕食はステーキだ。
それに今日は空いてるからいい部屋に案内してあげる。
とぐぐっとくる提案が。
決めるのは鉱泉に着くまでにすればいいとのことでしたが、心はすでに決まりです。鉱泉の食事と小屋の良さは有名ですが、まさかステーキとは。そしてお風呂に入れるのもこの時期は魅力です。(以前にも来たが冬だったのでお風呂はなかった)
ご主人の娘さんの話などをしながら進み、ほどなく車が入れる最深部に到着。ここからはもう歩きのみでしか入れません。
時刻は9時半。
お礼を言って、登山道を登り始めます。
途中、先ほどのご主人と荷を背負った山小屋のスタッフに追い抜かされ、約一時間ほどゆるやかな山道を登っていくとほどなく赤岳鉱泉に到着。
本当に、かなりの時間を短縮することができました。
先に着いていたご主人に泊まることを告げると、大部屋の料金で、小屋で一番いい「赤岳」という個室に案内してくれました。
その部屋は絨毯が敷いてあり、なんとシングルベッドが4つ完備。そして窓からは赤岳の姿が目の前に見えました。
もはや山小屋というよりペンション。
さらに、このまますぐに出発する私達に、
雨具と水だけ持って空身で登りなよ
と、アタックザックまで貸してくれました。必要最小限の荷物を移し変え、再度お礼を言って出発です。
赤岳鉱泉から行者小屋まで、樹林帯を30分ほど歩きます。
平日のせいかひっそりとし、5~6人の人とテントがひと張りしかありません。
11時半。ここで簡単な昼食を食べ、さっそく登頂開始です。
地蔵尾根は工事中とのことで、文三郎尾根から向かいました。
しばらくアキレス腱が伸びるくらいの坂を登っていきますが、ここで先日購入したポールがとても役に立ちました。負荷も分散するし、バランスもとれるので、何も無いよりも歩きやすかったです。
また心配していた腕への負担もまったく感じることなく、高価なのを買わずともこれで十分でした。
しばらく登ると、今度は鉄の階段が登場。
キツイと聞いていましたが、思ったほど段差が大きくなかったので、ゆっくり休みながら行けば問題ありません。
このころから稜線の向こうからガスがサーっと流れてきました。
階段エリアを抜けると、少し傾斜が緩くなります。
ガスに包まれて真っ白になったり晴れたりを繰り返しながら核心部に到着。
ごつごつした岩場を鎖の道しるべを頼りに登っていきます。
実は今回、この岩登りがとても楽しみでした。
しかしここでひとつ気づいたことが。
手袋を小屋においてきてしまった
仕方ないので素手で登り始めましたが、結構岩がギザギザしていたり鎖が冷たいのでやはりあったほうがいいでしょう。しかし、ホールドしやすい岩は、みんなが掴んでいるのでいい具合に磨耗しています。
傾斜はそこそこありますが、まわりが岩に囲まれているのでそんなに高度感はありません。突起や凹みもいたる所にあるので足場に困ることもないでしょう。
ルートさえ間違えなければ大丈夫です。
そろそろかなと思っていると、
山頂はあと少し
ガンバレ
と書かれたプレートを発見。
こういう時にこういう励ましは、本当に元気がでます。
友人の「あと少し」という言葉にも励まされ、最後の梯子を登ると山頂に到着。
時刻は13時半。
山頂には1等三角点と小さな祠がありました。
少しガスっていましたが、雄大な風景が広がっています。
風景を楽しんだ後、赤岳山頂小屋のほうへ移動してみました。
ここにはベンチもあり休むことが出来ます。
しかしこちらにくるとすっかりガスに包まれてしまったので、少し休憩してから早々に下山することにしました。
赤岳登頂を果たしたあとは、当然ながら下山しなければなりません。
私はこの下山がとても苦手。
まずは山頂から赤岳天望荘まで最初の下りです。
鎖が設置されていますが、下りでは使いにくい。おまけに道はザレていてとても滑ります。
尻餅をつきながらなんとか山荘のある場所まで到着。
地蔵尾根の工事は今日までで、もう14時近いので終わっていると見越し、そちらから下山することにします。
周りは切り立った崖が谷に落ち込んでいますが、いったいどこを下りるのか。
ここですか…
その傾斜を見てテンションが一気に下がります。
はるか下には行者小屋と赤岳鉱泉の山小屋が小さく見えていました。
あ~あそこまで飛んでいきたい
などと都合のいいことを考えながら、現実に足元に続く坂道を下っています。
滑り落ちたら別の世界へ飛んでいってしまうような箇所を無事通り過ぎ樹林帯へ。
気が滅入ってきた頃、やっと木々の間から行者小屋が見えました。そこを右に折れ、今日のお宿の赤岳鉱泉まで30分です。
15時50分、山小屋到着。
部屋に荷物を置いてから、とりあえずビールを一杯ひっかけお風呂へ向かいます。
先客が一人いましたが、ちょうど入れ違えになったので貸し切り状態。
山の中なので石鹸は使えませんが、一人でゆったりと手足を伸ばすことが出来ました。
本当に贅沢な気分を満喫です。
体もホカホカになり、夕食までベッドに寝転がって赤岳を眺めながら休憩。
暗くなるにつれ、天望荘と山頂小屋の明かりが灯るのが見えました。
18時。お待ちかねの夕食です。
食堂には10人ほどの泊り客しかいなく、テーブルも広々使えました。
昨日、小屋のご主人からステーキだと聞いていたので、てっきり焼かれたものが出てくるのかと思ったら、自分で焼くスタイルでした。
ワインで乾杯し、さっそくおろしポン酢でいただきます。
おいしい~!!
霜降りで柔らかく、ボリュームも満点。平地でも久しくこんなお肉は食べていなかったのでかなり感動です。ご飯もスープもおかわり自由でしたが、一杯で十分でした。
お腹が一杯になった後は、小屋にある本を借りて部屋で読んでいましたが、昨日からほぼ徹夜だったこともありすぐに眠気に襲われ就寝。
個室なので静かにゆっくりと眠ることが出来ました。
早朝6時。
外を見ると風が強くガスっていて今にも雨が降りそうです。
昨日登っておいてよかった
と思いつつ食堂へ。
およそ山の中とは思えない魚の干物の和定食でした。
今日は山を下りて帰るだけなのでのんびりしていこうと思っていたのですが、天気予報を見ると、これからどんどん悪くなるとのことだったので早々に発つことにしました。
7時15分。外はとうとう雨が降り出しました。
レインスーツを着込み、出発です。
今日は3連休の初日ということもあり、途中、登ってくる登山者に何人も会いました。中には、韓国からの団体さんもいて八ヶ岳の人気の高さを伺えます。
そして、樹林帯を歩いていると見覚えのある車が下から走ってきました。昨日乗せてくれた赤岳鉱泉のご主人です。向こうも私たちに気づいて車を止めてくれました。今日は助手席に息子さんらしき男の子を乗せています。
昨日登っておいてよかったね~
今日これじゃ登れないよ
また来てくださいね
と言って去っていきました。
今同じ道を歩いていますが、結構な距離があり本当に乗せてもらって助かりました。
9時15分、車を停めた赤岳山荘に到着。駐車場にはこれから登る人たちが準備をしていました。上の状況を聞かれましたが、私たちが答えるまでもなく皆さん天気が悪いのは承知済みの様子。完全防備で歩いていきました。
登山の後はお楽しみの温泉です。
昨日白駒池からこちらへ来るときに温泉宿をたくさん見かけたので、そこへ行ってみることにしました。
最初は明治温泉に行きましたが、掃除中とのことで断念。
では、渋の湯に行こう
ということになりさらに奥まで進んでいきます。
渋の湯は天狗岳の登山口で、今までにも数回訪れたことがあります。ここの温泉はとても歴史があり、アルピニストの野口健さんも行き着け。
10時半。宿の受付で寡黙なご主人に800円を支払い、かって知ったるお風呂へゴー。鉱泉のお風呂のときのように、ちょうど先客と入れ違いになり、またも貸し切り状態。透明なお湯が、張った筋肉をジンジンとほぐしてくれます。
30分ほどゆっくりと温まってから、東京用にお化粧もして(登山中はすっぴん)出発。
雨が本降りになる中、高速へ入ります。
途中の八ヶ岳SAでお昼ごはんを食べに寄り、東京に帰りました。
--総括--
今回は、偶然の人との出会いで本当にラッキーな山歩きができました。
夜中に東京を発って途中のサービスエリアで仮眠をしただけで赤岳に登頂しましたが、登山口のギリギリまで車で行くことができたので体力的にも余裕をもって歩くことができました。
八ヶ岳はアクセスがよく、山小屋もレベルが高く充実しているので、とても快適な登山をすることができます。その分、行楽シーズンは混雑するので覚悟が必要。
先月、加仁湯と鬼怒沼に行ったときもそうでしたが、やはり人気の山や観光地に行くのは「平日」に限るとつくづく思いました。
今後も有休をうまく使って静かな山登りができたらいいなと思います。
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