主な訪問地:シガール~カプルー~ギルギット~ノーマル~カリマバード
物語に出てくるような宮殿ホテルに泊まりシガール、インド国境に近いカプルーなどの村を巡る。谷や村には杏などの花が咲き乱れ、夢見心地なやわらかな風景が広がっていた。シガールからフンザの中心地カリマバードまでの道中は道が崩れ難儀したが、真っ暗になったころ無事ホテルに到着。映画「草原の椅子」のロケでも使われたフンザエンバシーで、その夜の夕食は、見事な日本食とフンザウォーターが用意されていた。
今日はホテル出発が10時なので、それまでゆっくりできます。しかし、ちょっと早起きして屋上へ行ってみました。このホテルからはフンザ独自の風景が一望できるのです。
目の前には鋭い峰の雪山が連なり、その麓には杏の花が咲き誇る村が広がっています。
「風の谷のナウシカ」の舞台のモデルにもなったと噂される場所は、まさに風が通り抜ける切り立った谷間でした。
屋上を歩き回って風景を見ていると、ふと、ホテルの裏側の小高い山に、山頂に向かってうっすらと山道が続いているのを発見しました。
あそこに登ったら、もっときれいな景色が見えそう
と思った私は、朝食のときNさんに、登れるのかどうか聞いてみました。
するとOKだと言うので、ホテルの人に案内を頼んで、数人で登ってみることに。
8時半にホテルを出て、川沿いの道の杏の花のアーチを抜け、村の中に入ります。
迷路のような村の細い路地をくねくね曲がりながら抜けていくのですが、とても異国の雰囲気があって楽しい。
住人の人たちに挨拶しながら、裏の急坂を登ると、先程ホテルから見えた山道にでました。
そこをさらに登っていきます。
途中で記念写真を撮りながら山頂までいくと、思ったとおり、素晴らしい景色が広がっていました。
案内人の男の子は、別のルートを通ってホテルに戻ると言っていましたが、私は、さっきの村にもまた寄りたかったし、日の当たった、眼下のパノラマを写真に撮りたかったので、同じ道を下って行くことにしました。
杏の木の間の急坂を下りて、再び村の中に入ります。
うる覚えの記憶を頼りに路地を進んでいくと、元気に子供が遊んでいたり、にわとりが餌をつついていたり、どこまでものどかです。
村のはずれまで来ると、デコチャリに乗っている青年に遭遇。本当にこちらの人は飾り立てるのが好きみたいです。
後にガイドのSさんに、なぜ色々なものを飾るのか聞いてみたら、
スキダカラ
と、どこかで聞いたようなセリフが返ってきました。
でも確かに好きじゃなきゃ、デコトラのような懲り方はできないでしょう。
満開の杏の花の下を歩きながら、集合時間ぎりぎりにホテルに着きました。
今日はこのあと、シガールからインド国境に近いカプルーという村までお花見しながらドライブです。
最初はインダス川に沿って進みますが、しばらくいくとショク川に変わり、水の色が、今までのエメラルドグリーンから透き通る青に衣替えです。
途中、ヤギの放牧を見たり、ゴール村やユーゴ村などに寄り道しながら、お昼には花の綺麗な場所を見つけて持参のお弁当をいただきました。
カプルー村につくと雨も止み、うっすらと日差しも射してきました。
村中に咲きほこる杏の花々が淡いピンクに輝き、空気までがほのかに色づいているように見えます。
これぞまさに桃源郷
おとぎ話の中にいるような心地よさでのんびり散策していると、庭で何かを焼いているお母さんを発見しました。
何を作っているのか見ていると、私達に気づいたお母さんが、灰の中から鉄板を出し、その上で焼かれているお菓子を見せてくれました。
そしてその焼きあがったばかりのお菓子をいくつかおすそ分け。
お礼を言っていると、そこへNさんがやってきて、中に入っていいかお母さんに聞いてくれました。
すぐに快くOKしてくれたので、みんなでお庭にお邪魔すると、さっきのお菓子を一人ひとりに配ってくれたので、だいぶ数が減ってしまいました。
ちょっと心苦しい。
Nさんたちの通訳でお母さんの話を聞くと、このお菓子は、何かお祝いの時に作るもので、実は、このお家に赤ちゃんが誕生したので焼いていたそうです。
それを知ったNさんとSさんは相談してご祝儀をプレゼント。
お母さんは最初は遠慮していましたが、お菓子もいただいたしぜひ受け取ってくださいとお願いするとやっと遠慮がちに受け取ってくれました。
みんなで拍手でお祝いすると、いつの間にか沿道に集まっていた地元の人もつられて拍手。
大勢の人に祝福されたお母さんは、とても嬉しそうでした。
途中、休憩を挟みながら同じ道を通って19時にはホテルに到着。
天気はイマイチでしたが、いい思い出ができました。
今日の夕食にはフンザ料理も出され、それがとても美味しかったです。
朝食に行きがてら、広いホテルの中を探検。あちこちに歴史ある調度品などが展示されていました。
早朝7時。
2日間お世話になった宮殿ホテルを後にし、フンザの中心地カリマバードへ向かいます。
そして今日、途中のギルギットで、橋の決壊のためにジャグロットで足止めをくっていたHさんと合流できることになりました。昨夜、新しい橋が完成してやっと通れるようになったそうです。
1時間ほど走ってバルティスタン地方で一番大きな町スカルドゥに到着。
トイレ休憩で立ち寄ったホテルから、カルポチョ城とインダス川の素晴らしい風景が見えました。
その後、スカルドゥロードをカラコルムハイウェイを目指し快調に進みます。
行きは暗くて何も見えませんでしたが、よくみると切り立つ岩肌に家が建っていたり、わずかな土地を利用して段々畑が作られていたり、日本ではありえないような場所で人の暮らしが営まれていました。
また、ふと川原をみると、女性や子供たちがテントを張って砂金採りをしています。
12時すぎ、そろそろお昼時なので、ちょうど道端にあった御茶屋さんで持参のお弁当を食べることになりました。
脇にはインダス川がサラサラと流れ、まわりでは牛や鶏がボーっとしています。
はあ~~
日本とも同じ時間が流れているはずなのに、こういう時の刻み方をしているところもあるんだな
しばらく私もそんな空気の中でボーっとしてみました。
ボリューム満点のお弁当を平らげ、ちょっとキッチンを見学したりして出発。
途中、車もランチということでガソリンスタンドに寄りました。
しかし、お店の人とちょっと話してすぐに出て行こうとするのでどうしたのかと思ったら、
ガソリンがないそうです…
とのこと。
ガソリンスタンドにガソリンがないって…と思いましたが、仕方ないので、次に見つかったスタンドに入り、
ガソリンありますか?
と、ガソリンスタンドでする質問としては一番ありえないことを聞いて給油。
スカルドゥロードのような、いったん走り始めたら進むも戻るも大変な道は、少々ガソリンに余裕があっても見つけ次第給油したほうがいいでしょう。
14時前、スカルドゥロードとカラコルムハイウェイを結ぶアラム橋に着きました。これを渡ると再びカラコルムハイウェイに入ります。
あとは一路ギルギットに向けて一直線…だったはずですが、ここはやはり噂のカラコルム、一筋縄ではいきません。またもや工事で通行止めになっていました。
もうこちらも慣れてきたのでいちいちイライラしたりせず、現場に見学に行ってみました。すると、中国人の監督の指示でトラックから何やら鉄板を下ろしている様子。
話によれば、これを下ろし終わったら通れるようになるとのこと。結局30分くらいで出発できました。
途中、すごい雨が降ってきましたが、地元の人は大きな布を体に巻きつけるだけで傘はほとんど差しません。
雨に濡れる黄色いジャスミンの花を眺めながら、程なくHさんの待つギルギットへ到着しました。
強風が吹く中、ギルギットのバスターミナルへ向かうと、Hさんが乗っている懐かしいバンを発見。荷物の詰め替えをしている間、私達はしばらくチャイを飲みながら休憩です。
16時すぎ、準備完了ということで、臨時のドライバーAさんとお別れし、2日ぶりにHさんと喜びの再会。あの素敵な笑顔は健在でした。
ギルギットの町中を走っていると、何だか今までののほほんとした雰囲気とは少し違う感じを受けました。
それというのもギルギットは、スンニ派とシーア派との紛争があった地域で、ほんの1年前まで激しく戦っており、一日に10人から15人の人が亡くなっていたそうです。
そのため、一般市民よりも軍人の方が多く、町中には武装した兵士の姿をいたるところで見かけました。
またその一方、学生も多く、民族衣装ではないジーンズ姿などの若者もたくさんいました。
ギルギットを抜け1時間ほどいくと、ノーマル村という小さな村に入りました。
ここは、現在工事中の一部のカラコルムハイウェイを迂回するために通ったのですが、なんとも味のある雰囲気で、道が完成して通らなくなってしまうのがもったいないくらいです。
いつもなら素通りなのでしょうが、たまたま、チェックポストで必要なネームリストをコピーするということで、その間少し時間散策することができました。
パキスタンの中を歩いていると、どこに行っても注目されますが、ここも例外ではありません。
私達が歩いているといつの間にかたくさんの人が集まってきて、挨拶をすると、ちょっとはにかみながら飛び切りの笑顔を返してくれます。
今までを振り返っても、バンで移動中のときなど、どうして外人が乗っているのかがわかるのか不思議ですが、遠くからでも目ざとく私達を発見して、沿道から、家の庭から、デコトラから…、もういたるところから、笑顔で手を振ってくれました。
今まで色々な国に行きましたが、旅行中にこんなにずっと笑って手を振り続けていた国は初めてです。
村を散策していると、街角で男性数人が肩を寄せ合ってチェスのようなゲームをしていたり、子供がロバを引いて干草を運んでいたり、にわとりがエサをつついていたり、おじいちゃんが写真を撮ってくれと言ってきたり…ということでカメラを構えると、とたんに固まったり。本当に飽きません。
時間になったので、後ろ髪引かれつつみんなにお別れを言ってノーマル村を後にしました。
しばらくいくと、再び崖っぷちのデコボコ道になりました。
天気も悪いので寝ようとしましたが、体の力を緩めると鞭打ちになる危険を感じたので迂闊に転寝もできません。
夜8時すぎ、日もとっぷりと暮れ、あと一息で目的地に着くというころ、再びカラコルムの魔の手が行く手を阻みました。数日前に大規模な崖崩れが発生し、その修復工事をしていて、大きなバスは人が乗ったままでは重くて通るのが危険とのこと。そこで私達は、一旦バンを下りて、危険地帯を歩いて通ることになりました。
街灯などないので、懐中電灯片手に、落ちれば奈落の底という足場の悪い道を慎重に歩きます。数十メートルほど進み、安全地帯に到着。あとはみんなで、バンが無事にくるのを見守ります。
今来た道を振り返ると、真っ暗な闇の中に私達のバンのヘッドライトだけが煌々と輝いて、積もった土砂の上をゆっくりと越えていました。
それを見たメンバーのひとりが、
猫バスみたい
とポツリ。
たしかに、暗闇に目を輝かせて走るあの様にそっくりです。
猫バスは、ヘッドライトを大きく揺らしながら無事に私達の元へ到着し、再び乗車。一路フンザの中心地カリマバードへ向かいました。
21時半、やっとのことでフンザエンバシーホテルにたどりつきました。
外は真っ暗で周りがどんな様子かはわかりませんが、このホテルからの眺めはとても素晴らしいとのことで明日が楽しみです。
部屋に荷物を置いて、ホテルのレストランで夕食です。
今日のメニューはなんと日本食。以前は、外国で食べる日本食にはあまり期待はしていなかったのですが、この間行ったペルーや中国の四川で食べた日本食が美味しかったので、今回もちょっと期待。
そして期待通りでした。
これを作ったシェフはインドで働いている日本人の料理人の方で、今回、ここのホテルの日本食のレベルアップを図り、わざわざ来てもらったというから納得。
野菜やお米も日本から取り寄せたそうで、本当に美味しかったです。
そしてもうひとつ注目したいのが、ここにきて初めてお目にかかったアルコール。パキスタンはイスラム国家なのでお酒は飲まないのですが、ここフンザには、
フンザウォーター
なる飲み物があるのです。
ビールやワインなどのアルコール飲料は、みんなひっくるめてフンザウォーターと呼ぶそうなのですが、今回登場したのはワインでした。
少し試飲をさせてもらいましたが、
う~~ん。自然の味
決してまずくはありませんでしが、1本十何ドル払ってまではという感じ。やっぱりここではチャイが一番美味しいです。
美味しい日本食にすっかり満足し、長距離移動の疲れも出てきたので部屋へ向かいます。
ここのホテルには暖房設備がないので、レストランを出るときに、旅行会社が用意した湯たんぼが配られました。
またこちらでは、シャワーのお湯は薪を焚いて沸かしていて、その水は近くの氷河から流れてきたミネラルウォーターという、とても自然が身近に感じられるホテルなのです。
部屋に向かう途中、ふと夜空を見上げるとたくさんの星が瞬き、周りに聳える山々は、柔らかい月明かりで青く闇に浮かび上がっていました。
ついに来た…
何度も停電を繰り返す部屋で、心地良い感慨にふけりながら眠りにつきました。